地下水路カナートについて

上の図はカナートの模式図である。中東地域の至る所で見られる地下水路のことであるが、イランではカナートであるが、他ではカレーズと呼ばれるところもある。降水量の少ない地域ではこのような地下水路を建設して地下水を利用している。図では右側が山地、左側が平地になる。降ることは少ないが山地に近いところで降った雨が地下に沁みこむ、その地下の底に不透水層と呼ばれる岩盤などの層があれば、水はそれ以上下には沁みこまずに地下水となって蓄えられる。その地下水を狙って縦井戸をほり、そこから横に水路を掘っていくのである。縦井戸を掘るとそこで掘り出された土が地上の穴の周りに積まれることになる。だから、空からカナートを見るとドーナツのような円形が続いている風景が見える。砂漠地帯を飛行機で通る時によく目にすることができる。模式図では単純化されて描かれているが、実際には非常に長いものである。数キロから数十キロのものまである。カナートの終点で露出したところが池であり、オアシスであって、村人を支えているのである。

インターネットでカナートのことを見ていたら2020年4月26日のTehran Timesの記事があった。見出しは「世界最長のカナートが修復中」とあった。その記事によれば、その水路はイランのヤズドにあるが、最近の洪水により土砂が流れ込んだようである。以下に新聞の写真を転載するが、冒頭の図に見るような単純な井戸ではなく、かなり大きな構造物のように見える。

私がカナートのことを知ったのは学生時代に受けた「西南アジア事情」という授業の中であった。その時に先生(確か京大から非常勤できていた末尾先生)が「このカナートに魚がいることがあるらしい。そして、その魚は白くて目が見えないらしい。」と話したのだった。先生が「らしい」と言ったのは先生自身が見たわけでなく、書物からの伝聞であったからである。その本の名は『Blind White Fish in Persia』であった。なぜ、そんな人工的な地下の水路に魚がいることが不思議であったし、さらに地下で日の当たらないところなので色は白く、目も見えないというのが神秘性を感じたのだった。

私自身、旅行中に道路の脇にカナートが見えた時に、車を降りてカナートの近くまで行ったことがある。近くで見ると竪穴の直径は3メートル以上はあって、意外と大きかった。竪穴から人が入り、横穴を掘っていくわけである。灯とりに蝋燭の燭台を使うと聞いた。それは灯とりだけではなく、酸欠の危険から身を護るためでもあるとも聞いた。いずれにせよ。地下での仕事である。土砂の崩壊などのリスクもあるだろう。私のような閉所恐怖症の者には耐えられない仕事である。皆さんも砂漠を横断するような道路を走る機会があったなら、少し注意して周りを見渡してみてはいかがでしょうか。

さきほど『Blind White Fish in Persia』という本の題名を記したのであるが、1972年頃、テヘランの書店でこの本を見つけたので、買ったのであった。今では古びているが書棚の隅に置かれている。表紙カバーはボロボロである。中の画像を少しここにアップしておこう。


表紙と中表紙

カナートの掘削風景と内部

内部