中東の美:ペルシャ絨毯

これまで色々な記事を書いてきたので、ペルシャ絨毯についても既に書いた気がしていた。でも、そうではなかったようである。今回はそのペルシャ絨毯について書いてみよう。冒頭の画像は昔テヘランの書店で買った本の表紙である。タイトルが「Oriental Rugs and Carpets」であるから、ペルシャ絨毯だけでなく、中央アジア、例えばサマルカンドや中国の緞通などについても書かれているので、それぞれの特徴も分かるので興味深い書籍である。この本からいくつかの画像を拝借させて戴くことにする。

ペルシャ絨毯の場合は「織る」というよりも「結ぶ」という方が合っているかもしれない。縦糸に結び付けていく感じである。上の図の左側の列が「トルコ結び(Turkish knot)」と呼ばれる結び方である。上段は正面から見たもので、中断は上からセクション(断面)で見たもの、そして下段は縦糸2本に結び付ける方法である。右列は「ペルシャ結び(Persian knot)」と呼ばれる方式である。縦糸にこのように糸を結び付けて、それを道具をつかって上から下に押さえつけるように締め込むような感じと言えばいいだろうか。

絨毯織りに使う道具である。上の二つは縦糸の間に入れて、結んだ糸を下に抑え込むものであろう。あとは糸を切ったりするためのナイフや鋏類であろう。普通は次の画像のように絨毯を立てて織っていくわけである。大きなサイズのものを織る場合は、横に数人が並んで織ることもある。珍しい方式では、立てるのではなく水平において織っていく方法もある。

ペルシャ絨毯の美しさの要素の一つは色である。古い伝統をもつペルシャ絨毯は現代のような化学染料が存在しない時代からの産物である。従って、天然の染料で糸は染められた。もちろん今ではすべての絨毯が天然染料で染めた糸を使っているわけではないのは仕方ないことであろう。また糸の種類も絨毯の良し悪しに関係する。もともと古い時代から絨毯は生活の必需品であった。建物の中、テントの中・・・絨毯は日本でいえば畳に相当するわけである。だから、絨毯は華美や豪華さを求めるものではなかったはずである。私が最初に絨毯を買った場所はイランのシスタン州・ザヘダン市から、また車ではるか東のパキスタン国境に近い町ザボールで、1972年のことであった。その土地周辺のローカル色豊かな絨毯2枚ものであった。それの糸はウール(羊毛)であった。ウールの絨毯は実用的でそれで充分であった。あれから既に50年近く経ったことになる。

これがその50年前の絨毯である。古くなり色も褪せてきたが、絨毯としての役目は健在である。いわゆる高級なペルシャ絨毯の洗練された趣はないが、地方色豊かな人間味溢れる図柄であると思っている。愛着のある絨毯である。

ウールであると言った。他にはコットン糸(綿糸)の物もある。イランの北東部辺りのトルクマン達が織る絨毯は綿糸のものが多かったように思う。もちろん、ウールもある。さらに絹(シルク)もあるであろう。今、日本のお店でも、またイランに行って絨毯屋を除いても、目を引く美しい絨毯は「オール・シルク」ですと言われるだろう。本当に美しいのはそういう絨毯であることに間違いはない。多分、我々日本人が買うとなると、それは装飾品として求めるのであろうから、このような絨毯が望まれるのであろう。でも、絨毯は飾り物ではなく、やはり部屋に敷いて使ってもらいたいものだ。例えば次の画像のこの絨毯はオール・シルクの少々大きめのものである。オール・シルクの製品は見る角度によって光の反射の影響で色が濃くなったり薄くなって見えるのである。そして、絨毯の厚みが非常に薄い。模様も糸が細い分だけ細やかな模様が出来上がる。素晴らしい出来栄えになる。私はこの絨毯も普段から敷いて使い古しているので汚れもでてきたし、傷もできてきたが、厭わずに使っている。

次の絨毯もオール・シルクである。これは小さいサイズなので玄関のマットに使用している。これは20年ほど前にゼミ生の学生一人を連れてイランとトルコ旅行に行ったときに、学生の勉強のために絨毯の買い物の仕方を実戦で形式で教えたときのものである。テヘランのバザールの絨毯屋をうろうろして気に入ったのがこれであったが、その日の値段交渉はまとまらず、翌日もう一度行って交渉したが、まとまらず。何度も行って交渉するのがお互いの楽しいゲームなのである。そして、イスファハンとシーラーズの観光に3日ほど行って帰ってから、またこの店に行って、最終的に買い求めたものである。産地はコムである。今頃コムの絨毯は人気が高いという。

次の絨毯はイスファハンであるが、中級品である。というのはウールが主で、一部にシルクを使っているのである。シルクは花柄の輪郭部分などに使われており、その部分は光って見えるので美しい。オール・シルクに較べると厚みがある。そうそう、ペルシャ絨毯は薄ければ薄いほど評価が高いのである。中国の緞通は何と言っても厚みがあってフカフカの肌触りが良いらしいが、ペルシャ絨毯は反対である。だから、新しい絨毯を買うと、それを家の前の道路に置くことがある。その上を車が走っていくのである。そうして、表面の毛羽が擦られていい具合になるというのである。

この絨毯はそう薄くはないが、それでも旅行用のスーツケースに折りたたんで入るくらいのものである。

話は自分の絨毯になってしまったが、これなどは中級の下程度のものであって、決して自慢できるものではない。でも繰り返すが絨毯は消耗品であるというのが私の考えである。でも、ペルシャ絨毯は長持ちするのも事実である。そして、模様の細かさであるが、これはパソコンが普及して画像を画素数で表すように、ペルシャ絨毯も一定枠の中にknot(結び目)がいくつあるかが尺度になる。いい絨毯なら表は勿論美しいが、裏も美しい。だから、あえて裏返して置いておく場合もある。オール・シルクなら、どんなものでも裏返してもいいだろう。

トルコに行けばトルコの絨毯。パキスタンにも独特の絨毯がある。国によって柄が特徴あるように、ペルシャ絨毯も産地によって絵柄が異なっており、ほぼ特定できるのである。そして、いいものには絨毯の隅に産地と工房のの前が織り込まれているのである。先述の玄関に敷いているものの工房が次のように示されている。

ちょっと書き疲れたので今日はここまでにしておきましょう。