イスラムの美 ①:タイル

2021年も早や9月になりましたね。コロナは一向に静まる気配がありません。本来ならば行楽の秋、芸術の秋ということで何処も賑わいを増す季節になるのでしょうが、今年はそうもいかないようです。せめて、ここではイスラムの美を楽しむことにしましょう。今回はタイルです。イスラム世界を旅するとモスクの美しさに強烈な印象を覚えるのではないでしょうか。勿論絢爛豪華なモスクばかりではありませんが、豪華でないモスクでもそれなりの美しさを感じるような気がします。

モスクを美しいと感じるとき、それは色彩からかもしれません。あるいは花や唐草をあしらった模様、いわゆるアラベスク模様かもしれません。私たちのアラビア書道の仲間には、モスクを見た時の文字の美しさに魅せられてアラビア書道を始めたという方が大勢おられます。色彩であれ、模様であれ、文字であれ、それらはモスクの外壁を覆っているタイルの美しさなのです。今回はヴィクトリア・アンド・アルバート美術館発行の「Palace and Mosque – Islamic art from the Victoria and Albert Museum 」の中のタイルを紹介させていただきます。つまり、これらはこの美術館に所蔵されているものです。

メッカ・カーバ神殿図解のタイルである。トルコ、おそらくイズニクでの17世紀の作であろう。縦が61センチ。

押型ラスター彩青釉文字唐草文小型ミフラーブ。イランおそらくカーシャーン、14世紀初期。高さ62センチ。

ラスター彩草花文十字・星形タイル。イランおそらくカーシャーン。1261ー62年の年代銘記。

ラスター彩釉文字文方形タイル。イランおそらくカーシャーン。1307ー08年頃。高さ35.8センチ。

白地多彩花文組タイル。トルコおそらくイズニク。17世紀。高さ188.6センチ。

白地多彩野宴図組タイル。イラン、エスファハーン。17世紀。幅221.5センチ。

白地多彩文字タイル。トルコ。1727年。主調となるのは書道文字装飾で、神の名、預言者ムハンマド、さらにアブー・バクル、ウマル、ウスマーン及びアリーの最初の歴代カリフ4名の名が様式化されてあしらわれている。この組み合わせはシーア派がアブー・バクル、ウマル、ウスマーンの正統性を拒絶していることから、スンナ派イスラムへの帰依を表す。高さ29センチ。

押型ラスター彩青釉タイル。バフラーム・グール図。イラン、タフト・イ・スレイマーン。13世紀末。高さ31.5センチ。

白地多彩チンターマニ(変形宝珠)文タイル貼暖炉。トルコおそらくイスタンブル。1731年。高さ365センチ。

それぞれの画像には詳しい説明もあるのですが、ここではこれらのタイルの美しさを楽しんでいただければと思います。

中東の美:ラスター彩の輝き

前回、白瑠璃碗、つまりガラス器を取り上げたので、今回も焼き物を取り上げよう。今回はガラスではなくと陶器やタイルである。冒頭の画像はINAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」コレクションを紹介している小冊子『ラスター彩タイル』の表紙である。副題として「天地水土の輝き」とある。発行は2013年9月である。ラスター彩とはなんであろうか。この小冊子では「ラスター彩は器の表面に描かれた図柄が金属的な輝きを呈する陶器の彩画技法で、イスラーム地域で特に発展した。」と説明されている。そしてINAX社が集めた12世紀~13世紀に焼かれた美しいタイルが紹介されている。無断転載は禁止なのでここに紹介はできなくて残念であるが、INAXのホームページから見ることができるのではないだろうか。ところで、ラスター彩は金属的な輝きをいかにして発光させているのだろうか。インターネットでは以下のように説明されていた。

ラスター彩とは:
① ウィキペディア
ラスター彩(ラスターさい、Lusterware)とは、焼成した白い錫の鉛釉の上に、銅や銀などの酸化物で文様を描いて、低火度還元焔焼成で、金彩に似た輝きを持つ、9世紀-14世紀のイスラム陶器の一種。ラスター(luster)とは、落ち着いた輝きという意味。
② 大辞林 第三版
イスラム陶器の一。スズ白釉はくゆうをかけて焼いた素地きじに銀・銅などの酸化物で文様を描き低火度で焼成したもの。金属的輝きをもつ。
③ 百科事典マイペディア
陶器の表面に金属や金属酸化物のフィルム状の被膜を600〜800℃の低火度で焼きつけ,真珠風の光沢や虹彩(こうさい)を出した焼物。この技法は9世紀にメソポタミアで始まったといわれ,次いでエジプトで発達し,のち12,13世紀のペルシア陶器に多く用いられた。
④ 世界大百科事典 第2版
陶器の釉薬において金属酸化物に起因する輝き,あるいはこの輝きをもつタイプのイスラム陶器をいう。日本では〈虹彩手〉〈きらめき手〉と呼ばれている。技法的には,スズ釉による白色陶器(素地を青緑,藍彩にする例もある)に銀,銅酸化物(硝酸銀,硫化銅)を含む顔料で絵付をし,低火度還元炎で再度焼成する。呈色は黄金色が多いが,釉薬の成分,焼成温度などによって微妙に変化するので,黄褐色,赤銅色を呈することもある。 ラスター彩の技法は9世紀にメソポタミアで創始され,次いでエジプトに伝えられてファーティマ朝下で発達し,王朝滅亡後はイランに伝播した。

釉薬に金属、特に錫を混ぜるような技法であるらしい。かといって、そのように釉薬を調整すればできるというものではない。焼成の温度や陶土の質だとか、ラスター彩のあの本当の輝きを出すことは非常に難しいということだ。

これは私の手元にある1986年発行・保育社カラーブックス『ペルシャ陶器』500円の表紙である。著者は人間国宝の加藤卓男さんである。私の手元には2冊あり、もう一冊は表紙を広げると次のように著者のサインがある。陶器の作品に描かれる見慣れた銘のそばにペルシャ文字でتاکو کاتو と付記している。最初の تا の部分はちょっと変形させているようだが。著者の加藤卓男さんは、ペルシャ陶器のラスター彩に魅せられて、イランに通い、ついにラスター彩を復元することができた陶芸家なのである。岐阜県多治見市に1804年に開いた幸兵衛窯の第六代目である。現在は七代目の代になっている。幸兵衛窯では彼の作品やコレクションが見学できるので、私は時々訪れることがある。

この『ペルシャ陶器』によると釉薬のことや、イスラム模様のこと、各地域のラスター彩のことなどを知ることができる。

また、上の画像の『やきもののシルクロード』という書籍では加藤卓男さんが追い求めたペルシャ陶器のことを味のある文章と絵で著している。素晴らしい書籍である。彼はペルシャ風の絵をうまく描いており。陶板も数多く製作しており、幸兵衛窯では買い求めることができる。

最後は圧巻の『ラスター彩陶・加藤卓男作品集』を紹介して終わろう。

著作権に触れるといけないので遠慮して作品集の写真の中の一枚だけアップさせてもらおうとするのだが、一枚を選ぶのが非常に難しい。読者はどうかネットの中で、検索して彼の作品をご覧いただきたい。いや実際に幸兵衛窯に行って、本物をみていただきたいものである。