書籍紹介:アブー・ヌワース著『アラブ飲酒詩選』その2

「その1」をアップしたのが、2019年6月であったから1年以上の長い時間が経ってしまいました。ペルシャの詩のほうに寄り道したせいであったかもしれません。まだまだ紹介したい部分があるということで締めくくっているので、もう少し彼の詩を紹介したいと思います。

酒が欲しくなるとき
飲酒をとがめる人よ
 いつ君は愚かになったのか?
私に別な忠告をしたほうが
 君には似つかわしい。
とがめる人に我々が従うくらいなら、
 アッラーに従っていたことだろう。
飲み友達よ、朝酒の盃をほし給え。
 そして、私にも注いでくれ給え。
私は世人に非難されると、
 ますます酒が欲しくなる。

震える指
飲み友達は二日酔いが続き、
 指に震えがきている。
右手を左手で支えてやらないと、
 盃をもっていられない。
夜半、私が彼に盃をさすと、
 彼はもっと欲しがり、更に欲しがった。
彼は言った。「私を落ち着かせるため、
 もう一杯、私はもっと欲しいのだ」
これが毎夜の二人の習慣、
 私が余計に注ぐと、彼は更に求める。
やがて倒れてしまうが、彼は知らない、
 大地の上に寝たか、部屋の中に寝たか。

僧院の朝酒
鐘の音が君に暁を告げ、
 修道士が僧院で祈り声をあげた。
酔漢が酒を恋しがっている。
 雨が降り、時は春だ。
君は庭園を見廻し、
 緑の草、黄色の花に笑いかける。
さあ、飲み友達に酒を与えよ、
 雨の一滴をまぜた上で。
肴はラヴェンダーや睡蓮、
 そして色とりどりの花の飾りだ。
野原のここかしこで、
 白い若鹿が草を食んでいる。
すばらしいものは僧院の朝酒、
 そして一年の中で四月。
腰に帯をまいた者よ、
 聖なる酒場で、ユダヤ人の祭日に。
私を知っているなら、注がないでくれ、
 私の胸にひめたもの以外は。
君の知っている私の好物を持ってこい。
 酒であれば、名は何とでもつけよ。

不思議なもの
もし酒が私の食べ物だったら、私は幸せだ。
 食事を待たずに酒だけを飲んでいればよい。
酒は不思議なもの、君はそれを飲む。
 飲むがよい、たとえ酒が君に罪を負わせようとも。
生の赤酒をとがめる人よ、
 君は天国へ行け。私は地獄に住まわせてくれ。

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今回は飲酒詩の中から4編を紹介した。素直に味わっていただきたい。何も難しいことを詠ってはいない。ただ、酒を愛する気持ちの発露である。イスラム社会に生きた酒飲みである。少しは罪に気持ちも抱いている。大ぴらに、酒を扱うのは異教徒である。「僧院の朝酒」で「腰に帯をまいた者」はユダヤ人である。酒飲みの私としては共感すること大である。少し長いので今回紹介していないが「酒と船」の書き始めで今回の結びとしよう。

 悩みごとが生じたら、盃で癒し給え
 悩みごとなどなくなるように。

アブー・ヌワースは酒で有名な詩人であるが、美しい恋愛詩やたしなめの詩、禁欲詩なるものも書いている。またの機会に紹介することにしよう。