私がカナートのことを知ったのは学生時代に受けた「西南アジア事情」という授業の中であった。その時に先生(確か京大から非常勤できていた末尾先生)が「このカナートに魚がいることがあるらしい。そして、その魚は白くて目が見えないらしい。」と話したのだった。先生が「らしい」と言ったのは先生自身が見たわけでなく、書物からの伝聞であったからである。その本の名は『Blind White Fish in Persia』であった。なぜ、そんな人工的な地下の水路に魚がいることが不思議であったし、さらに地下で日の当たらないところなので色は白く、目も見えないというのが神秘性を感じたのだった。
奴隷についてアチコチ検索してみると、ある論文を見つけました。それは、波戸愛美氏のイスラム世界における女奴隷 ―『千夜一夜物語』と同時代史料との比較― Female Slaves in the Islamic World : Comparison between the Arabian Nights and its Contemporary Sources です。そこに女奴隷を売買する場面が記載されていました。引用させていただきます。 『千夜一夜物語』においては、奴隷売買は、奴隷市場においてか、買い主のもとに奴隷商人がやってくるといった形で行われている。同時代史料との比較が可能なライデン版から事例を抜き出してみると、「女奴隷アニース・アルジャリースとヌール・アッディーン・イブン・ハーカーンの物語」には、奴隷の売買の記述が幾度か現れる。王に素晴らしい女奴隷を望まれたワジール(宰相)は、すぐさま市場に向かい、奴隷商人に「10,000ディーナール(金貨の単位)以上の美しい女奴隷がやってきたら、売りに出す前にこちらに見せるように」と命令する。そして、女奴隷アニース・アルジャリースがペルシア人の仲買人の手によって大臣のところに連れてこられるが、仲買人は彼女の値段を聞かれて次のようにいう。 ああ、ご主人様! 彼女の値段は10,000ディーナールでございます。しかし、彼女の持ち主が誓って申しますには、彼女が食べました鶏や、彼女が飲みました酒、そして彼女の先生方からいただきました恩賜の衣といったものの値段がそれではまかないきれないとのことでございます。なぜなら、彼女は書道、言語学、アラビア語、クルアーンの解釈、文法学、医学、法学などを修め、それと同様にあらゆる諸楽器の演奏にも通じているのでございます。 この台詞は、女奴隷アニース・アルジャリースが主人のもとで衣食住を保証され、また高度な教育を受けていたことを示唆するものである。そして、仲買人はその養育費をも大臣に払えと要求している。
やはりここでも奴隷ががんじがらめに束縛されていたわけではない。ここでは高等教育を受けた知的な人物であることが分かるのである。